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欧州視察報告3(イギリス編(3))(メルマガ744号より抜粋編集)

イギリス医療視察報告(その3)をお送りします。

 その前に、最近感じていることを1つ。
 連日、耐震偽造問題が報道されています。 この問題の本質は、私は、建築の確認・検査について、その仕組みの問題点のチェックもせずに、安易に民間企業に任せたことにあると思います。「民間でできることは、民間に」というかけ声はいいですが、しかし、安全性や人の命にかかわる問題を、制度変更の際にきちんと検証しなかったことが問題です。
 あとから容易に修復・カバーできないものは、事前に必要なコストをかけることがトータルコストの削減にもつながります。
 これは、以下のイギリス医療の現状とも重なる問題です。 お金をかけるべきところには、きっちりお金をかける。 公的責任を持たねばならないところは、しっかり最低限は公が 責任を持つ。ある意味当然のことですが、経済的な効率性に目を奪われたり、プラス面の表現に騙されて物事のマイナス面を忘れてしまい、陥りがちなことでもあります。


 今回は、イギリスの家庭医について書きます。 ヒヤリング内容のメモからまとめました。

 日本のように好きな開業医(診療所)や病院を選ぶことは、イギリスではできません。地域の決まった家庭医がまず対応します。その仕組みを説明します。
 イギリス家庭医協会を訪問し、ライヤ会長、アーチャー副会長(共に医師)などに話を聞きました。 ライヤ会長はインド系イギリス人。イギリスにはインド系の医師が多いのです。

 イギリスのNHS(ナショナル・ヘルス・サービス)は、無料が原則。一部の薬が有料。しかし、歯科医療は8割自己負担。保険のきかない自由診療(全額自己負担)はごく一部。
 プライマリー・ケア(一次医療)では、一人の家庭医が平均1800人の人口を担当。この家庭医を経ないと病院にも行けないので、ゲートキーパー(門番)とも言われる。 患者は気に入らない家庭医を変更できる。
 眼科、精神科、耳鼻科なども含めて、すべてを一人の医師が担当。 家庭医で無理なときは、病院や専門医を紹介。 つまり、家庭医が受け持つ患者は登録制。家庭医から紹介してもらえないと、専門医や病院に行けない。
 日本のように、誰もが直接病院に行けるシステムより、コスト的に効率的なので、イギリスではほんの一部の人しか病院に行かないシステムにしている。多くの患者が、自分の近所の家庭医で対応できるようになっている。
 車の事故や急に倒れたという緊急時は、救急病院に行くが、95%の患者が家庭医で対応している。5%の患者が専門医や病院にかかる。  法律で必ず家庭医を持つことが決まっている。
 イギリスはアメリカより社会主義的なので、貧困層でも家庭医にかかれるようになっている。アメリカでは貧困層は医療にかかりにくい (4000万人以上が医療保険に入れていない)。貧困層の健康管理もイギリスでは家庭医が行っている。
 一次医療はチームで行う。診療所で行う。いろんなスタッフで行う。プラクティス・ナース、診療看護師は、医師の監督下で一定の医療行為が行える。
 イギリスでは、手術が必要なような限られた重症の人しか病院に行けない制度にしている。下手に病院に軽い人が行っても、他の患者から感染症がうつされる危険性があるなど逆効果のことも。

 日本の議員から「一人の家庭医が、1800人担当は多すぎるのでは?」 と質問。ライア会長は、「私も多すぎると思う」と回答。
 また「本当に95%の患者に家庭医が対応できるのか?」との質問に対しては、
「イギリスでは、家庭医の質が高い。私たちはゲートキーパー(門番)。風邪の患者などは、ほとんどの患者は病院に行く必要ない」とのこと。

 次に、ロンドン中心部のセント・トーマス小児科病院を訪問。 180床。うち20床が手術室。病院に見えない病院を目指していて、明るい雰囲気。
 子どもが居心地よいように、子どもをメンバーに入れて病院の運営協議会をつくっている。
 病棟の廊下も直線でなく、曲げている。長い廊下は、「病院的」で良くないので。

 イギリス医療の最大に問題である「待機リストをいかに短くするか?」 という質問をした。
 「この病院では、2年前は、一般の手術の待機期間1年半だった。 今は半年。半年後には4ヶ月にする。そのような目標が決まっていて、それが実行できないと病院は罰金を払わねばならい制度になっている」 とのこと。
 「医療の質は下げず、治ってないのに退院させたりさせずに、待機リスト減らせるのか?」 との質問に対しては、
 「この病院での入院期間の短縮が、手術後の質を低下させたというエビデンスはない。そんな問題は起こっていない。妥当な治療が行われている」とのことであった。

 家庭医から病院への不必要な紹介を減らしている。しかし、平均入院期間はそれでもアメリカの3倍。ジョナサン・マイケル院長によれば、イギリスでは、星を病院につけて、格付けしている。 「3つ星」から「星なし」まで。
 ちゃんと頑張っている病院に対してはそれなりに評価してほしいという要望が現場から出たからだ。

 まとめるならば、根本的に、日本とイギリスでは、医療に対する期待と認識が違う。日本はとにかく、一刻も早く、医師や病院に行きたい、かかりたい。大病院志向である。
 一方、イギリスでは、風邪では薬は出さない。まず「仕事を休め」と言う。実際、イギリスでは日本よりも仕事を休みやすい。
 日本人からすれば、手術に3ヶ月から半年以上も待つイギリスは異常と思う。しかし、イギリスからすれば、日本は、フリーアクセス(医療にすぐかかれる)というよりは、医療の交通整理ができず、ムダ使いが多すぎるとのこと。

 以上、支離滅裂な報告になりましたが、総合点では、日本の医療のほうが上ではないかと思います。
 やはり、イギリスではサッチャーが医療費の伸びを長らく抑制したことが原因で、医療サービスが大幅に不足しています。

 日本でも今、医療費の抑制が国会で大きな議論になっています。確かに、無駄な医療費の削減による伸びの抑制は必要かもしれませんが、イギリスの現状を見ると、下手に医療費の伸びを抑制すると、結局は、患者が一番被害を被り、再び、医療を向上させようとしても、医師や看護師のやる気が失われ、大幅に不足した中では、容易に立て直しは難しいことを感じました。

 医師や看護師などの人材育成、養成は、短期間にはできません。日本でも小児科医や麻酔医をはじめ不足している分野は多いですが、それは待遇が悪かったからです。また、看護師も慢性的な人手不足です。
 日本人が本当に質のよい医療を受けたいと願うのなら、そこで働く人に、人間らしい労働条件や待遇が必要だと思います。その意味では、いま日本で議論されている診療報酬下げの議論には疑問があります。

 (つづく) Posted at 2005年12月30日 18:21 | TrackBack
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Comments

はじめまして。

公立病院で小児科医をしている者ですが、まったく先生のおっしゃるとおりだと思います。
イギリスに研究留学しておりました時に体験したイギリス医療の悲惨さについては私のホームページにも記しましたが、今の小泉政権が強行しようとしている医療費抑制政策、診療報酬の引き下げは、先生も御指摘された80年代のサッチャー政権の失敗を繰り返そうとしているように私には思えてなりません。

Posted by: まさ at 2006年01月15日 05:19

 医療制度研究会幹事で済生会栗橋病院の本田です。
 英国の医療、いろいろな報告で同様のことを聞いておりましたが、現役の議員の方がそれを調査していただいたことに感謝申し上げます。有難うございました。
 報告の中でも触れられていますが、日本は医療費をずっと低レベル(英国と同様)に抑制してきました。そして実は医師数もまったく同じく(英国と同様)養成を抑制してきたのです。
 現在日本全国で医師不足の問題が起きていますが、その原因を医師の需給検討会は「偏在」としてきました。しかし現在の日本の医師数は約26万人、OECDの人口当たり平均と比較するとなんと12万人も不足しているのです。
 この12万人の絶対数不足が顕在化しているのが僻地のみでなく麻酔科、救急、産科、ガン化学療法、緩和ケア医師不足等々に結びついているのは明らかです。
 そしてこの少ない医師数が、フリーアクセスのために多忙な勤務医の激務となって、勤務医がドロップアウトせざるをえない状態になっています。
 医療費とマンパワーを早急に見直さないと日本が築き上げてきた医療システムは崩壊します。
 医療を見直すことは医療関係者のためではありません。国民のためです。医療や教育は民主主義社会を支える共通基盤と臨床現場で実感しています。
 「木を見て森を見ず」の議論から早急に現場の真実を基盤にした議論をしていただければ日本の医療のみではなく、日本が良い方向へ転換する事も可能と思います。これからもよろしくお願い申し上げます。

Posted by: 本田 宏 at 2006年02月12日 07:49

お疲れ様です。
耐震偽装問題で大変疑問に思う事があります。それは、建築士の方が積極的に解決に立ち上がらない事です。偽装問題により建築士全てが疑惑の眼差しで見られています。建築士という資格自体の存在意義が大きく低下しているのです。建築士の社会的使命を考えると、自ら行動すべきなのではないでしょうか。

Posted by: 杉山 英俊 at 2006年02月25日 20:31
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