体験ルポ・スウェーデンと日本のグループホーム

 

その3

 

日本の病院の痴呆病棟

 日本でも良い施設はたくさんありますが、日本の悪い例を、ご紹介します。 

 ある老人病院。
 自己負担
15万円です。 

 ちなみに、介護保険でのグループホームの自己負担は、月約1116万円が多いです。 

 私はスウェーデン・アメリカ・イギリス各国をまわって、研究をしてきました。スウェーデンに2年、イギリスに4ヶ月、アメリカに4ヶ月など。日本に帰ってくると、痴呆症のお年寄りが、病院の廊下を、寝間着を着て一日中歩き回っている。 

 精神病院に痴呆症のお年寄りを入れている国は少ない。老人病院に痴呆症のお年寄りを入れている国は世界に少ないのです。 

 なぜか? 

 当たり前です。痴呆症は、病院に入れて治る病気じゃないからなのです。 

 それにも関わらず、日本では一日中、お年寄りが、病院の廊下を歩いている。 

病院の廊下を、あてもなく歩き回る痴呆老人

 日本での実習中、看護婦さんが、「もうすぐお昼ごはんの時間だから、ごはん持って行くから、ベッドで待っていて。じっとしといて」 

 そのとき、ある女性が一言、「じっとなんかしてられへんわ。じっとなんかしていたら女の恥や」と言う。 

 いま痴呆症になっておられる80歳くらいの女性は戦争を経て、こまねずみのように働け働けという、そういう時代を生きてきているのです。かえってなんにもしないで良いから、じっとしていてと言われると、「何かしないといけないのではないか」、と落ち着かないのです。 

 簡単な食器洗いや、食事を運んだり、あるいは簡単な畑仕事や、井戸端でジャガイモを洗いを、してもらうと、こころが落ち着くのです。 

 しかし、残念ながら、畑仕事をやっても食器を洗うのを手伝ってもらっても、病院では保険の点数にはなりません。 

 薬を出し検査をしたら、保険点数になるのです。ですから、何もさせずに、一日中廊下を歩き回っています。ますます痴呆症が悪化するわけです。 

 

 

痴呆性老人向け抑制寝間着(つなぎ寝間着)を着た・やまのい和則

 つなぎ寝間着   

 私は、色々な体験をしています。 

 この写真で、私が着ているのが痴呆性老人向け抑制寝間着(つなぎ寝間着)です。上下つなぎになっています。痴呆症のお年寄りが失禁をして、おむつを外さないように、オムツに手を突っ込めないように上下つなぎの寝間着になっています。 

 世界の中で、このようにおむつに手を突っ込めないような鍵のかかるつなぎ寝間着を使っている国は、世界の中で私の知る限りでは日本だけです。
確かに、介護者にとって助かることは否定しませんが・・・。
本人にとってはよくない。
 

 

人間は見られるように変わる

 私は、この抑制寝間着を着て老人ホームで3日間、滞在しました。 

写真の向かいにいる方が、まじまじとわたしの顔を見ているのです。しばらくすると、シクシクと泣き出されて、ぽつりとこの方は、「かわいそうにこんな若くからぼけてしまって」と、私のこの姿を見て言うのです。 

 つまりこの服を着ているだけで、ボケている人のレッテル、痴呆症のお年寄りだというレッテルが貼られてしまうのです。 

 心理学では、「人間は見られているように変わる」という言葉があります。 

 つまりまわりから、あの人は痴呆だから何を言ってもわからないそういう扱いを受けたら、人間は、ますます痴呆症が悪化してしまうのです。 

 

 

痴呆老人大部屋・右上にポータブルトイレが見える

 自己負担20万円の老人病院です。 

 ここの痴呆病棟でも、私は実習をしました。 

 50人の痴呆性老人に対して3人のスタッフ。
   → 夜間もふらふらと歩き回る。
   → 転倒して骨折されたら困る。
   → 睡眠薬をのんでもらう。
 

 ところがお年寄りにとっては、睡眠薬はよく効く。晩に飲むと、よく効き昼間までグーグー寝る。悲しいかな昼間まで寝ているほうが、介護スタッフには、手がかからないのです。 

 スウェーデンの学者の方やアメリカの学者の方が来られると、私は、日本の老人病院に案内します。そのとき彼らは驚き、「なぜ痴呆病棟で、昼間からお年寄りが寝ているのだ」と。 

 言い訳になりますが、私は、老人病院を批判しているのではありません。 

病院の看護婦さんやスタッフの方は、職業病の腰痛になりながら、少ないスタッフで、必死になって頑張っておられます。病棟の30人も50人もの人数を、介護・お世話しろというの方がそもそも間違いなのです。 

8人部屋にポータブルトイレ 

 ここに、なぜ8人部屋なのにポータブルトイレが使われているのか? 

「ぼけたら、人前で用を足しても分からない、羞恥心や恥の文化なんかないのだ」というのが、残念ながら今までの痴呆の理解です。 

 ところがとんでもない。 

 痴呆症のお年寄りの方が傷つきやすいのです。 

 痴呆ケアの目的は、自尊心を傷つけないことです。 

 トイレを失敗して「ああ汚い」と、そんな不用意な言葉を言われたためにショックを受けて、それが引き金で痴呆が悪化するケースがたくさんあります。 

 しかし、ぼけたら人前で用を足しても分からない、という発想でポータブルトイレで用を足させる。お年寄りはどうなるでしょう。 

 お年寄りたちは、人前で用を足すのは嫌だ。イヤダ、イヤダ、落ち着かない。ストレスになる。あばれだす。 

 痴呆症がまた悪化してきた。暴れ回って困る。また、薬飲んでもらおう、寝てもらおう 

 私たちでも、もし8人部屋で、「ここで用を足してください」と言われたら、「こんなところでは、いやだ」、と叫ぶでしょう。 

 ところが痴呆症のお年寄りは、いやだと叫べない。それが徘徊やいろんな行動になってくる。そうすると重度になったということで、寝かされてしまう。 

  

ひとり当たりの費用、グループホームは安い!

 この老人病院では自己負担が20万円、医療保険から30万円出る。月にひとりのために合計50万円。 

 グループホームでは、自己負担と介護保険からの報酬をあわせて、4045万円。 

 もしこの老人病院がグループホームより費用が安くつくから、このような状態(8人部屋・ポータブルトイレ・睡眠薬)をやっているのなら、仕方ないかもしれない。ところがこの老人病院の方がグループホーム(ひとり一人に合ったケア)より費用は高いのです。 

 日本はこれをやめられない。 

 日本では、痴呆症のお年寄りを痴呆病棟にいれる政策を、とってきてしまっているのです。 

 

 

ベットにひもで動き回らないようにされている痴呆老人

忘れられない出会い 

 ある老人病院で働いたときのこと。 

 痴呆症のお年寄りを、受け入れてくれる老人ホームがない。 

 京都では老人ホームには、平均2年待ちでした。疲れ切っておられるご家族の方は、2年も待てないので、仕方がないから、老人病院を選びます。 

 老人病院もすぐには入れません。入れてくれる病院を探して、病院回りをし、3、4つ断られます。特に家族が介護で一番大変な、動き歩き回る痴呆症のお年寄りはどこからも敬遠されます。 

 やっと入れた老人病院では、まずベッドに柵をつけられます。落ちる危険があると、安全上の理由で柵をつけられる。それでも動く場合は、このようにひもで縛られるのです。 

「兄ちゃん、ほどいて!」 

 私が夜勤のとき、 

「にいちゃん、このひもを、ほどいて!」

 といって私の手をにぎって離されないのです。 

 このひもほどいてください、わたしは言葉につまりました。 

「まだ風邪が治ってないから、申し訳ないけれどもう少しここにいてください」と、私は真っ赤な嘘をつきました。そのあとまたこの方が手を握って離さない。 

「にいちゃん、おおきいのが出そうだから、トイレに連れていって欲しい」そういう意味のことを言う。ところがこの痴呆病棟も50人で、晩のスタッフは2人。いちいちトイレに連れていけない。 

 私は、トイレに連れて行けなかったのです。 

 その方は、次の日から食事しなくなった(上から食べたら、下から出るという理由で)。3ヶ月後にこの方は亡くなられてしまいました。 

 老人病院に入る前日までは、お嫁さんが四苦八苦して夜中でもトイレに連れていっていた。介護疲れでお嫁さんが倒れてしまい、それで老人病院に入った。そこでは人手がないという理由で、トイレ誘導お断り。 

 私は、本当になさけないと思いました。私は、懸命に、講演をしたり、本を書いたりしている、しかし、現実に苦しんでおられる方の「たったひとり」も、救うことが出来ないでいる。 

 

 

オムツ体験

寝たきり・オムツ体験・半身不随体験・ギブスをつけて、奥がやまのい和則

 

 私は、3日間でもおとしよりの気持ちが分かるのではないかと、自分自身、おむつをして、生活してみようと思いました。 奥が私です。 

 

こんな姿で失礼!オムツ体験中の、やまのい和則

 これが、私のおむつ姿です。

 あのおばあさんもトイレに行けなくて苦しんでおられ、泣いておられた。 

 まず自分も「小」をしようと思いました。 

 しかし、出ない。おむつをしても、出なくては体験にならない。そこで、水をがぶがぶ飲み、コーヒーを3杯、お茶を3杯飲んで、おしっこがいっぱい出ました。 

 ホントに大変な経験でした。それとともに今度は、大の方が大変です。大なんか出ないです。寝ていたらまず気張れないのです。 

 それでも、あの痴呆症のお年寄りは、そうして苦しんでいたのだと思い、 

 こんな話をしたら恐縮ですけど、必死になっておむつの中にやってみました。 

 自分の下のにおいが、4人部屋の部屋に広がっていくあの屈辱、あの情けなさ。 

 私は、「こんな生き恥をさらすなら死んだ方がましだ」とまで思いました。 

人手が足りないとの理由で、お年寄りの尊厳を保つことが出来ない、日本の現状に、私は、怒り・憤りを感じました。 

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