日本でグループホームを増やすために!
    その魅力と現状と課題

はじめに 

私と痴呆性高齢者向けグループホームとの出会いは、1989年に初めてスウェーデンでグループホームを訪問した時のこと。

それ以来、「グループホームこそが痴呆ケアの切り札だ」「グループホームが日本にも必要だ」と痛感し、日本でグループホームを普及させるための研究・運動に取り組んできた。

本の執筆や講演だけでなく、ホームページやメールマガジンも作成した。


 このレポートでは、「なぜ、グループホームが必要なのか」「なぜ、グループホームが日本で増えないのか」「どうすれば日本でグループホームが増えるのか」などについて述べたい。


グループホームの魅力

 つい先ほども、カナダ在住の日本人からメールが来た。彼女は私のグループホームのホームページやメールマガジンの読者であるようだ。

 「東京に住む実母が痴ほう症で、特別養護老人ホームから徘徊して脱けだし、大騒動になった。警察のお世話になり、施設からは、『うちでは面倒みれないので、退所してほしい』と迫られている。しかし、退所しても行き場所がない。東京でよいグループホームを紹介して欲しい。早急に返事が欲しい」という内容のメールである。

 私のところには、このような「グループホームに入居したい(させたい)」というご家族からの問い合わせや、

「グループホームを開設したい」

「施設を辞めて、グループホームで働くのが夢」などという相談が連日殺到している。


 では、グループホームの魅力とは何であろう。先日、老人保健施設の隣に新築されたグループホームを訪問した。

 老人保健施設で四人部屋に住んでいた時には、無気力であった痴呆症のおばあさんが、道を1つ隔てて向かいに新築されたグループホームに引っ越した。

老人保健施設にいた時には、部屋の中のゴミ箱に排泄する癖があった。

しかし、グループホームでは部屋の向かいにトイレがあるため、グループホームに入居した当日にトイレの場所を教えたら、すぐにそのおばあさんは理解し、自分でトイレに行くようになり、二度とゴミ箱で排泄することがなくなった。言葉数が増え、目つきがかわった。

 介護スタッフは言う。

「老人保健施設にいた時には、声かけをしても私の目を見てくれなかった。

しかし、グループホームに移ってからは、声をかけると、私の目を見てくれるようになった。

視点が定まるようになったんです。

入居して2週間後には、『庭の花に水をやりたい』と自分から言い出すほど生きる意欲が湧いてきました。

グループホームがよいとは聞いていましたが、ここまでガラッと変わったのには驚きました」と。

 しかし、このグループホームにも悩みがある。

老人保健施設は入居費が月8万円だったが、グループホームは月16万円と二倍の自己負担。

この理由は、グループホームが在宅サービスであるため、家賃も食費も全額自己負担になるからだ。

入居費が高いため、このグループホームはまだ8人の定員が満員になっていない。


 グループホームの現状と課題

 グループホームでは、いっしょに簡単な調理やそうじをしたり、痴呆症のお年寄りの持てる能力を引き出す生活リハビリを、少人数の家庭的な環境で、また、個室の居室を保障して行うことによって、痴呆症状がやわらいだり、症状の悪化が遅くなったりするのだ。

 しかし、グループホームはまだ全国に500ヶ所程度しかなく、4000人ほどしか入居できない。

痴呆性高齢者が160万人と推計(厚生省)されているから、400人に一人しか利用できない。

 痴呆性高齢者向けグループホームは、介護保険の正式なメニューであり、要介護1以上の痴呆性高齢者が利用できるが、現状では、
「絵に描いた餅」に過ぎない。


 では、このように「痴呆ケアの切り札」と期待されるグループホームがなぜ増えないのか。

1つには、グループホームの世間での認知度、知名度が低いことがあげられる。

しかし、それ以上に大きいのは次の3つの理由だ。


1、介護報酬が低すぎる

 グループホームは、介護保険のサービスの中で最も採算がとれないサービスと言われている。

実際、全国の自治体調査でも、「介護保険の中で最も足りないサービス」のトップがグループホームである。

 その最大の理由は、介護報酬が低すぎるからだ。

そして、介護報酬が低い理由は、
「介護報酬を高くすると、安易に金儲け主義の営利企業などがグループホームを設立し、質の低いグループホームが増える危険性がある」という危惧らしい。その結果、グループホームの介護報酬は「あえて低く、採算がとれにくい」ように設定されている。

「介護報酬が低ければ、金儲け主義の営利企業も参入しないだろう」という思惑だろう。

 しかし、この考えはおかしい。

なぜなら、介護報酬が低すぎるため、良心的な法人も採算がとれないという理由で、グループホームに二を足を踏むようになった。

実際、私の知る限りでも、グループホームの予想よりはるかに低い介護報酬が発表されて、グループホームの設立をあきらめた良心的な法人がいくつもある。

 さらに、介護報酬が低すぎるため、十分なケアができず、質の低いグループホームが現在増えてしまった。

一方、金儲け主義の質の悪いグループホームも増えている。 要介護3で月25万3000円の介護報酬は、1日8時間預かるデイサービスよりも安い。

実際、夜勤が絶対に必要なのに、宿直しか厚生省は想定していない。

早急に30万円に引き上げるべきである。

このままの低い介護報酬では、十分なケアが行えず、近い将来グループホームで事故などが起こることを私は危惧している。


2、単独型グループホームに建設補助がでなかった。
 
 介護報酬の次の壁が建設補助だ。

今年度まで、グループホームの建設補助は、老人ホームやデイサービスセンターとの併設型にしかでなかった。

グループホームの良さは、住み慣れた地域の小さな土地に容易に建設することができることである。しかし、建設補助が併設型に限られていたため、単独型が増えにくかった。 

 この点について、来年度から単独型グループホームにも建設補助を出すことを厚生省は概算要求に盛り込んでいる。

しかし、この建設補助は、医療法人や社会福祉法人のみを対象とし、NPOや営利企業は除外されている。

私のところには、グループホームを計画しているNPOや営利企業から、抗議や問い合わせが殺到している。

 厚生省としては、NPOは不安定なものも多いし、営利企業もピンからキリまであるので、対象から除外したいのであろう。

しかし、自由競争を原則とする介護保険市場において、社会福祉法人と医療法人にのみ建設補助を出すのは、不公平極まりない。

 確かに、一部のNPOや営利企業は不適切かもしれない。それなら、すべてのNPOや営利企業ではなく、市町村にチェックさせ、

「市町村が認めるNPOや営利企業」に限って、建設補助を出せばよい。


 3、入居費が介護保険施設の倍

 私の知るグループホームでも、入居者が集らず倒産の危機に瀕しているところがある。

冒頭に紹介したグループホームも質はよいが、「多くの家族が値段を理由に入居を断られました」(グループホームの職員)という現状だ。

 特別養護老人ホームや老人保健施設の入居費は、平均月6−8万円なのに、グループホームは、10−16万円と倍近い。

同じような症状の痴呆性高齢者が利用するのに、特別養護老人ホームよりもグループホームの入居費が倍も高いのはおかしい。

このままでは、グループホームは介護保険施設よりも、比較的裕福な高齢者が住むという住み分けになってしまう。

 「グループホームは在宅サービスだから、食費や家賃も全額自己負担だから高くなる」というのが説明のようだが、

これは、「グループホームは個室で、介護保険施設よりも居住環境が良いから自己負担が高くても仕方ない」という考え方だろうか。

 しかし、痴呆性高齢者は四人部屋では混乱し、症状が悪化しやすく、良質なケアを提供するには居室を個室にすることは必要なのだ。これは「贅沢」と考えるべきではない。

 要介護3の介護報酬のおおまかな額は、グループホームが25万、特別養護老人ホームが33万、老人保健施設が36万。

こう見ると、グループホームの介護報酬が低い分だけ、自己負担が他よりも高くなっているのがわかる。

 グループホームの介護報酬を大幅にアップするか、グループホームを施設サービスと位置付けて、食費や家賃をある程度、介護報酬でカバーすることによって、グループホームの自己負担を介護保険施設並みにそろえることが必要だ。

 「ゴールドプラン21」では、2004年度までに3,200ヶ所(1ヶ所平均8人とすれば、24,000人入居)を目標としているが、160万人と推定される痴呆性高齢者にとっては64人に一人しか利用できず、少なすぎる。

実際、厚生省の山崎史郎老人福祉計画課長も、「グループホームは将来的には中学校区に1つぐらい、1万ヶ所くらい必要」(京都新聞一面、2000年9月12日)と発言している。

 私は、2004年度までに全国に10,000ヶ所(中学校区に1つ)、2010年度までに25,000ヶ所(小学校区に1か所、20万人分)に目標を上方修正する必要がある。

 これは、不可能な数字ではなく、上に述べた3つの改善策を早急に実現させれば達成できる。


グループホームの質の確保へ3つの提言

 ただ、最後に強調せねばならないことがある。それは、グループホームはただ増やせばよいというものでなく、質の確保が大事だということだ。
 そのために3つ提言したい。


1、グループホーム開設相談窓口の設置。

 私の事務所にも連日、グループホーム開設の相談が舞い込むが、多くの事業者が、

「市町村の担当者にグループホームの開設について相談しても、『自分もグループホームを見たことがない』という始末。話にならない」と嘆いている。

厚生省はどこかの団体に委託してグループホーム開設相談窓口をつくるべきだ。

そうすることで、質の悪いグループホームの設立を未然に防ぎ、良質なグループホームを増やすことができる。


2、市町村の監督責任の強化。
 
 現状では、多くの市町村は、「グループホームは都道府県が勝手に認可したので、市町村にはあまり責任はない」と言い、新設したグループホームに市町村の担当者が訪問したこともないというケースも多い。

市町村の積極的な指導や監督なしには、グループホームの質の確保は難しい。

 グループホームの開設に市町村の許可も必要とし、それとセットでグループホームの質のチェックに市町村に大きな責任を負わすべきだ。

都道府県だけでは、1つ1つのグループホームの質に責任を持たせるのは無理だ。


3、痴呆ケアスタッフの育成

 さらに、グループホームを増やすには、痴呆ケアスタッフを育成せねばならない。

痴呆疾患センターが、宮城、東京、大阪に設置されるが、そこでは、痴呆ケアを指導する講師の養成が行われ、痴呆ケアスタッフの養成そのものではない。

 だから、痴呆ケアスタッフの養成学校や養成コースをすべての都道府県に設置すべきである。

同時に、すでにグループホームで働いているケアスタッフの研修も充実する必要があるが、今の低い介護報酬では、十分な研修は無理である。


 結論を言うならば、私の意見は、

介護報酬などをアップし設立しやすくすると同時に、

質のチェックも厳しくし、良質のグループホームを急速に増やすという考えだ。


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                                              やまのい和則 拝