介護保険はどう動く?

さわやか福祉財団発行
「さあ、言おう」2000年10月号から、対談形式の記事。

使いやすい介護保険に向け
改革に全力を注ぎます!

グループホームを全国に2万5千か所に
「現場の声を結集する場にしたい」

公的介護保険か導入されてほぼ半年。

紆余曲折を経てスタートした新しい社会保険制度だけに、国民の間に広く浸透しているとは言いかたい。

介護の現場からは、早くも改革、改善を求める声が上がっている。二〇代の半ばから高齢者福祉の現場に飛び込み、日本人にふさわしい介護のあり方を模索してきた山井さんにとって、これからが出番である。

本誌,「さわやか対談」で、公的介護保険やグループホームの必要性を熱く語ってから約七年、着実に自らの思いを実行している山井さん。

初当選の興奮冷めやらぬ中、政治家としての抱負を語ってもらった。
                        (聞き手/鎌田穣)

「痴呆症の認定を早急に改善」

介護保険制度がスタートして半年近く経ちましたが、各方面からさまざまな問題点が指摘されています。

私は介護保険の枠組みや理念は正しいと思いますが、運用上の問題、たとえば要介護認定のあり方、低所得者の負担増、なぜサービスの利用率が低いのか、ショートステイの利用を促進するにはどすれぱいいのかーーなど改善すべき点は山積みだと思います。


まず痴呆症の人たちの要介護認定のことですが、現場を預かる人たちから改めて問題点を指摘されています。

これは制度の導入前から「呆け老人をかかえる家族の会」で改善を求めていたこと。厚生省は来年度以降、認定ソフトを作り直すと言っていますが、それでは手遅れです。

痴呆老人を抱える家族にとっては、まさに今日の問題であって、一日も待てない。それほど切実な問題なのです。

早急にソフトを手直しするか、それに時間がかかるならしかるべき応急措置を取るべきです。

徘徊の激しい人は初めから要介護2〜3にするとか、救済措置はあるはずです。

論語ではないけれど、
「過(あやま)ちては則(すなわ)ち改むるに揮(はばか)ること勿(なか)れ」です。


低いサービスの利用率

介護保険は低所得者にとってかえって負担増になっているのでは、という指摘も多いのですが。


誠に心の痛む問題です。

現在は利用者の自己負担に軽減措置はあるものの、ケアプランを受け入れた要介護者のうち七割の人はサービスを十分に利用していないのが実情です。

これでは何のための介護保険かということになる。

「経済的な理由で必要なサービスを受けられない」というのは、制度の建前からいっておかしい。

そう思いませんか。

もちろん介護保険はスタートしたばかりですから、利用者もその家族も不慣れなところがあるかもしれませんが、それでも一割の自己負担はきついという一部の声にどう対処するのか。

今迄は経過措置で保険料はゼロですが、10月から半額負担になります。お年寄りやその家族がどうやって介護費用を捻出していくか、大きな社会問題になる懸念があります。

私もヘルパーの人とお年寄りの家を回ってみて、サービスを受けるのに、そんなにお金がかかるのならやめときます」と言われ、ヘルパー自身愕然としているケースに出合いました。

「私たちの仕事はその程度しか評価してもらえないのか」と。

ヘルパーの失望もさることながら、わずかな負担に尻込みする人たちもいるのです。それでいいのでしょうか。


「福祉はタダである」という従来の受け止め方が、まだ残っているということでしょうか。

こんなこと言うと、叱られるかもしれませんが、家族にとって介護のためのお金は後ろ向きの金かもしれません。

人間は子供の教育のためだったらお金を投じるけれど、お年寄りのためにはお金を使いたがらないーーこれ、動物の本能かもしれませんね。

それはともかくサービスの利用手控えについては、お年寄りの立場に立って総合的な対策が必要です。


喜ばれるショートスティに

ショートステイ(短期入居)の利用率が低いのも気になります。

これが一番頭の痛い問題です。

どこに行ってもベッドはがらがらで、老人ホームの責任者は悲鳴を上げている。

さすがに厚生省も2002年からショートステイの利用可能日数の上限を撤廃するという改善策を打ち出しましたが、それでは遅すぎる。

2年も待てません。直ちに改善の手を打つべきです。

利用するお年寄りにとっても、送り出す家族にしても現在のショートステイは欠点だらけ。

ことにお年寄りにとって居心地の悪い施設になっているのが問題で、不人気もいいところ。

「四人部屋では困る。もう二度と行きたくない」という声をよく耳にします。

私は15年間、国内、海外の高齢者福祉の現場を見てきたのですが、ショートステイについては、

@大部屋でなく個室にする、

A畳の部屋を増やし、なじみやすい雰囲気に変える、

Bスタッフのサービスを充実する

ことが何より大事だと思います。

つまり運営とサービスの中身に問題があるわけで、お年寄りが喜んで行けるような仕組みに一日も早く改善してほしい。


行政に対する注文は尽きないと思います。これからは国会議員として改革に尽力してほしいですね。

介護保険制度は「介護の社会化を進める」という点で、いい仕組みだと思います。

それをもっともっと使いやすいように改善していくことが私の使命。

介護保険の申請件数は六月末で約280万人、実際に利用している人は在宅・施設利用者を含めて210万人(入院者やサービスを受けていない人は除く)に達していますが、まだ遠慮している人も多い。

制度が国民の中に浸透していけば、利用者はまだまだ増えていくと思います。金銭上の負担が生じる10月からが本番ですよ。

国会の常任厚生委員としてもがんばります。


故松下幸之助さんとの出会いから

ところで山井さんは松下政経塾で五年間勉強されたわけですが、故松下幸之助さんの薫陶を受けられたのは幸いでしたね。


松下塾長は当時、90歳過ぎ、車イスに乗って来られましてね。

生前7回もお目にかかりました。いつも国の行く末を真剣に考えておられた。

「国政に経営感覚を取り入れないと、日本の将来は危うい」と。

松下さんとの出会いがなかったら、ぼくは高齢者福祉の世界に飛び込んでいなかったでしょう。


国会議員としてこれからの活動方針は?


初当選した若輩者ですが、せっかく介護保険がスタートした年ですから、全国で250万人を数える寝たきり老人・痴呆症の人、それを支える家族や医療・介護の現場の人たちの声なき声」を代弁する“身代わり”になりたい。

ここ衆議院第一議員会館の240号室は、介護保険をより良くしたい人たちの発信基地とします。

私自身は業界の利益を代表する族議員ではなく、スペシャリティーを持った“専門議員”でありたいと思っています。

党内に設置された「介護保険をよりよくするプロジェクトチーム」の事務局長になりましたから、さっそく始動です。

これからの政治はスピードが大事、何せお年寄りや介護者は待ってくれませんからね。

もう一つの課題は、今問題になつ、ている公共事業を福祉型に転換していくこと。

高齢者福祉の充実こそ景気への波及効果が大きいし、地方に雇用の場を広げる突破口になると考えています。

「景気回復は福祉から」と声を大にし訴えたい、


グループホームの拡充こそ

痴呆ケアの場としてグループホi一ムの充実を訴えてきましたね。

その通りです。全国約3300の市町村の中でグループホームはわずか500か所。

一部の自治体にしかグループホームがありません。

ゴールプラン21(新しい高齢者保健福祉推進十か年戦略)では、2004年度までに全国3200カ所に痴呆性老人用のグループホームを設置する目標を掲げていますが、私は小学校区単位に合計2万5000か所のグループホームを設けるべきだと考えています。

空き家になっている民家や商店を活用して、小回りの利くグループホームを設置していきたい。

お年寄りの住み慣れた環境のところに設けるのがいちばんいいと思います。

堀田力さんが提唱しておられる「ふれあい型グループホーム」に賛成です。一丸となって推進したいと思います。


民主党・衆議院議員 やまのい高齢社会研究所所長
山井和則さん (やまのいかずのり)
1962年大阪府大阪市生まれ。86年京都大学工学部修士課程修了(バイオテクノロジー専攻)、同年(賊松下政経塾に入り、欧米、アジア諸国で現地実習をしながら高齢者福祉の実態を研究。
92年スウェーデンの国立ルンド大学に留学。
95年がら奈良女子大学や立命館大学の講師を務める。
98年やまのい高齢社会研究所(京都府城陽市)を設立。
今年6月の衆議院選挙で初当選(民主党近畿比例区。
著書に『体験ルポ世界の高齢者福祉一(岩波新書)、『スウェーデン発住んでみた高齢社会一(ミネルヴァ書房)など多数。
奥様の斉藤弥生さんは大阪大学人間科学部の助教授