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2003年4月9日 

厚生労働委員会 会議録 

 

○山井委員

 本日は、本当にお忙しい中、紀陸参考人、中村参考人、大須参考人、お越しくださいまして、本当にありがとうございます。

 今、この社会において最も深刻な問題の一つが雇用不安、そして老後不安、この二つの不安というものが消費を鈍らせ、貯蓄率を増大させ、結果的にはまたそれが失業の増大につながるという非常に深刻な問題となっております。

 そこで、お伺いしていきたいんですが、まず一つ目の質問、これはお三方にお伺いしたいと思います。

 まず、今回の改正案は、再就職を促進するとして、給付水準を市場相場に合わせ削減するとしているが、この方策の効果についてはどのようにお考えになられますでしょうか。これはそもそもの話で、今までからもう議論になっていることでありますが、改めてこの方策の効果についてお聞きしたい。また、そういうことに関して、現在の雇用状況からすると、この方策はセーフティーネットの強化とは逆行するものではないかと私は考えるんですが、いかがでしょうか。


○紀陸参考人

 山井先生から御指摘の御質問にお答えいたします。
 私どもは、今回の仕掛けによって相当に給付削減の効果が出てくるであろう、それによって、今非常に逼迫しております雇用保険全体の財政にも大きく裨益するのではないかというふうに考えております。

 かつ、保険の中身だけではございませんで、失業認定のきちんとした運用を去年の九月から行うというようなことになっておりますので、そういうこともあわせまして、こういうような仕掛けの見直しによって、相当に給付の削減及びそれに伴って財政の状況も、少しずつでございますけれども、積立金の増という格好で進んでいくのではないか、そういうふうに期待をいたしております。


○中村参考人

 現在の給付水準ということにつきましてはどう考えるか、市場相場賃金ということですが、私ども基本的には、求職者が生活のことを考えたときにやるのは、いわゆる再就職時の賃金ともらっている給付の関係ではなくて、今まで失業する前に働いていた賃金、当然それをもとに生活が組み立てられている、それと再就職時の賃金ということの関係で重視をして決めるということが基本だろうと思っておりますし、雇用保険法の趣旨も基本的にはそういうことだろうというふうに思っております。

 あえて現在の市場相場ということで考えますれば、労働市場の相場というのはかなりスタンダードというか安定的に決まっているという状況であれば、まさしく給付水準を市場相場以上に引き上げるということはある種非常におかしなことになるということはそのとおりだと思いますが、問題は、今の雇用状況で現在発生している、とりわけ中高年を中心にした非自発的失業者の方々、そういったような方々の現在の相場状況といったようなものがどのようなものなのかということについては、吟味が必要だろう。
 これは、特に近年そういう人たちが急速に労働市場に出されているということの中で、私どもの調査でも全く職がない。当然、需給関係は低いわけでございまして、もともと賃金が低い中で、職がないから賃金も低い、そういうものをもとにして考えることがよろしいのかどうかということがあると思います。

 現実の労働市場、とりわけ連合の調査では、賃金ミスマッチというよりも、むしろ非常に、年齢制限の壁、そもそも職がないということが重点的なような結果と判断しておりますので、この効果がさっと進むというふうにはなかなか、むしろ痛みを伴う人がふえるのではないかというふうに考えておる次第でございます。


○大須参考人

 今回の再就職促進が根本的な解決になるのかという御質問だったと思うんですが、具体的には就職促進給付、これが今までの再就職手当から変わって、安定的な職業についた人に支給していたのを今回はそれ以外の人にも支給する、こういうふうになって、安定的な職業だけじゃなくて、不安定的といったらいいのか、非正規雇用、これに対しても再就職した場合には促進手当を出す、こういうふうになっているわけですね。

 私の考えでは、これは、あるいは一時的には雇用保険財政をよくするものになる可能性はあると思います。ただ、根本的な解決にはなっていないというふうに思います。

 これは、つまり、雇用の不安定な部分というのは所得的にもかなり低い部分になっていますので、結局、ここに再就職していくということは、今までの生活水準ということを考えると、今までは例えば一人で何とか生活できたのが、二人とか三人とか、要するに家族総働き化をして何とか合わせなきゃいけない。こういうことになりますと、これが要するに、労働市場という点からいけば、労働力の供給過剰という問題に戻ってくると思います。ですから、そうすると、失業問題はさらに深刻な形で労働市場に戻ってくるんではないかと思います。

 ですから、これは当面の非常に差し当たりの処方せんでありまして、やはり今はそういうもっと長期の失業に対して安定的に雇用保険が運営できるように考えなければいけない、こういうふうに思っています。


○山井委員

 ありがとうございます。
 次にお伺いしたいんですが、給付日数の高い層で再就職時の賃金と逆転現象が生じているわけでありまして、それによって雇用保険給付支給終了直後の再就職が多いということが今回は改正の理由とされておりますが、ここが一番大きな判断の分かれるところであると思います。このことについてもお三方に、どのように考えておられるか、お伺いしたいと思います。


○紀陸参考人

 お答えを申し上げます。
 今先生が御指摘の点がまさに一番重要な点でございまして、特に今回の改正は、そこの部分について給付の刈り込みをするというような点が焦点になっております。そこの部分で刈り込みをしたことによって、その方々が失業後非常に生活水準が大きく悪くなるかというと、実はそうでもないだろう、そういうふうに考えております。

 かつ、今度の場合に、給付日数は失業の事由によってちゃんと分けられておりますので、本当の意味で、倒産、解雇による方々が失業に追い込まれた場合にでも、給付は刈り込みもありますけれども、日数自体はきちんと手当てされておりますし、特に新しく三十五から四十四のところは給付日数の手当てもきちっとできておりますので、その辺の配慮も今回の改正については目配りがきているというふうに私ども理解をいたしております。


○中村参考人

 先ほども冒頭に賃金の逆転現象については基本的な見解を述べさせていただきましたけれども、再度コンパクトに申し上げますれば、支給直後に再就職する人が多いのではないかということが先ほどモラルハザードを含めた論点になっておるわけでございます。

 しかし、私どもの認識は、申し上げましたように、非常に厳しい雇用状況で、極めていびつな市場相場の中のところで出てきている人が非常にふえてきている、そこの層で特に賃金の逆転があるという議論になっておるわけでございます。

 そもそも、こういったような労働市場が非常に厳しい中で、生活の維持を図るために再就職してやらなきゃいけないんだけれども、先のことを考えたときに条件のいい部分がなかなか見つからないということで、片や生活を抱えて頑張っているわけであります。その部分が非常に厳しいという市場状況に直面している中でまさしく雇用保険という制度は機能していて、それのおかげで一生懸命何とか頑張ってやれるようなところにつけるように努力をしていくという、それでも現実は厳しいというのが実態だろうと思います。

 雇用保険等が支給が打ち切られということの中でやむなく出ている、当然自分の今までのベースからするとかなり不本意ながら出ているということが、少なくとも中高年の方の実態から見れば今起こっていることなのではないか。その不本意にやること自身が、これをモラルハザードととらえるかどうかというのは、雇用情勢の見方に対する判断の問題であるというふうに思います。


○大須参考人

 逆転現象の問題ですけれども、逆転現象といいましても、基本手当は賃金の最高八割しか保障していないわけですから、賃金より高くはありません。ただ、その八割あるいは六割の基本手当以下の再就職の賃金しかないというところに問題があると思います。私は、ここがどういう問題かといいますと、問題は、現実に例えば基本手当よりも低い再就職賃金の仕事しかないというところに一番問題が現在はあるわけです。

 今の失業状況は、長期にわたって全産業的にわたっているという問題だけじゃなくて、失業率が高いというだけじゃなくて、就業者数も減少してきております。九七年から就業者数は減少してきている、こういうことです。ですから、一回失業したら、例えば就業者数が増加しているときはそれなりに乗っかっていくということができますけれども、もともと枠が小さくなって、そこに再就職していかなければいけない。

 それで、確かに雇用保険が切れた一カ月目が非常に再就職の人が高い。これは私は、ともかくぎりぎりそこで生活して、それで、では次はさらに低い賃金で何とか生活するしかないだろう、こういう選択をしているんだと思います。

 ですから、これを逆転現象と言って、さらに引き下げた方が再就職はしやすいんじゃないか、そういうことではないと思います。これは、再就職はするかもしれません。しかし、それは失業者を非常に厳しいところに追い込んで、それで再就職を強制する、そういう政策になっている、こういうふうに思います。


○山井委員

 先ほど我が党の大島議員からも指摘がありましたが、やはり日本の失業者の方々というのは当然失業になれておられませんし、中高年の失業が多い。そしてまた、その方々というのは一家の大黒柱であられるわけです。また、そういう状況に加えて、ヨーロッパに比べると給付額も、そして給付日数も少ない。そういう意味では、ある意味でもっとセーフティーネットを強化せねばならないというところで、私は本当に今回のこの改正というのは逆行であると思います。

 私も今までからホームレスの自立支援法案も取り組んでおりまして、先日の発表でも、四割の方、一番多い割合が、直接正規雇用からホームレスになられた、そのうち六割ぐらいの方が病気であるにもかかわらず、その過半数がまた病院にもかかれていない、こういうホームレスの方々がふえていっているという現状があるわけですね。かつ、ホームレスの方をどうするのか、それとともに、中高年の経済的な理由による自殺者がふえている、これをどう減らすのかということが政府の最大の目的であるときに、その逆行することをやっているんじゃないかというふうに思います。

 限られた時間ですので、最後に一つだけ短い質問をしたいんですが、そういう意味では、私は、今回のこの改正によって、要はもう自己防衛しかないということでまた貯蓄率を高めて、消費がますます鈍っていく。そういう意味で、また消費が鈍るとますます景気が悪くなって雇用不安が増大していくという悪循環になる。そういう意味では方向性が間違っているというふうに思うんですが、そのように今回の改正で貯蓄率が上がって消費が鈍ってますます不況なりデフレに拍車をかけるんではないか、このようなことに関して、時間に限りがありますので、非常に失礼ながら一分ずつぐらいで各参考人さん、よろしくお願いいたします。


○紀陸参考人

 お答えいたします。
 私どもは、雇用対策というのは、この雇用保険の仕組みの見直しだけで済まないんではないか、このほかにいろいろな雇用の機会を維持、創出していくという、もっと違ったスキームで考えていかないと、今先生の御指摘のような問題はなかなか解決し切れない。デフレ下で雇用をどういうふうに維持、創出するかというのは非常に難しい問題ではございますけれども、この制度改正にあわせていろいろな雇用対策を総合的な観点から、かつ、離職の理由別に分けて、失業の要因別に分けてきちんと対策を打つ必要があるんではないかというふうに思っております。


○中村参考人

 紀陸さんも申したとおりだと思います。やはり雇用対策、全体の経済対策を含めてということが貯蓄率等には大きな影響を及ぼすということがあります。

 ただ、一つだけ雇用保険の関係で私どもが考えておりますことは、このたびの累次の大幅な削減ということで、いわゆる勤労者の最後のセーフティーネットとしての雇用保険に対する信頼というものが失われかねない、そのことはそういう停滞の方に導くことになるということだけはあってはならないだろうというふうに考えております。


○大須参考人

 先ほどちょっと言いましたけれども、失業問題についても、これは、当面の雇用保険ということだけでいくと若干よくできるかもしれませんけれども、もっと長い期間で見たら、失業問題はさらに悪化する、そういうものを促進するものになると思います。

 失業問題が悪化するということは、労働者の生活が不安定化する、こういうことになりますから、そうしますと当然、家計というか、家計の将来に対して、消費を当面しちゃおうなんということよりは、あくまでもできるだけ現在の消費をやめて将来に残す、こういうようなことで貯蓄に回ってしまう、そういうことですから、景気回復という点からいけば全く逆行する効果を生むと思います。


○山井委員

 時間が参りましたので終わらせていただきますが、繰り返しになりますが、今回のこの改正が、ホームレスの方や、また経済的な理由による自殺者をふやす、そういうふうな方向になっていく懸念を私はやはり持っておりますので、そうならないように、精いっぱい民主党としても頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。


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